DeepSeekがウェブ検索と記事取得の公式APIを千件75セントで公開した。日本円にすれば月数千円で社内AI検索が組める水準だ。歓迎ムードが広がるが、評論家としては三つの地雷を指摘しておきたい。安さの裏に潜む依存リスク、国産ベンダーの単価崩壊、そして「取得は自前でできるのに課金する」という設計への素朴な違和感である。

何が起きたか

DeepSeekが公式ドキュメントで、ウェブ検索(search)と記事取得(fetch)のAPIを公開した。価格は成功リクエスト千件あたり0.75ドル。失敗リクエストは課金されない。AIが質問に答える際、自分でウェブを検索し、必要なページを読み込んで回答に使う。その一連の動作を外部サービスとして肩代わりする仕組みだ。これまで各社がBing Search APIやGoogle Programmable Search、あるいはスクレイピング基盤を自前で組み合わせて実装していた「検索連携」が、月数千円規模のランニングコストで利用できるようになる。社内チャットボット、競合リサーチ、FAQ自動生成といった業務領域に一気に流れ込む見通しだ。想定ターゲットはLLMアプリ開発者と、RAG(検索拡張生成)を社内に導入したい中堅企業である。

なぜこのニュースが重要か

重要なのは単価ではなく、「検索レイヤーがコモディティ化した」という構造変化のほうだ。これまで検索API市場は、Microsoft BingとGoogleが実質的な寡占を敷いており、千件あたり3〜5ドルが相場だった。DeepSeekの0.75ドルは、約5分の1から7分の1の水準である。推定だが、この価格はおそらく自社LLMの外販を加速させるための「蛇口」として設定されている。検索API単体で儲ける気がないからこそ、これだけ下げられる。問題は、ここに依存した日本企業が、将来の価格改定や中国側の規制変更、あるいはAPIの突然の終了に対して無防備になる点だ。安いインフラは、安いうちは麻薬のように効くが、切られた瞬間に業務が止まる。しかも検索ログは、どのクエリが飛んだかという形で、競合インテリジェンスそのものを相手に渡すことを意味する。コスト削減の記事ばかりが流れるだろうが、ログの行き先を誰も語っていない。

過剰評価への反論

ナレーションの最後にあった「取得処理は自分の環境でも動かせるのに、なぜ課金なのか」という現場の声は、本質を突いている。fetchは要するにHTTPリクエストを投げてHTMLを引っ張ってくるだけの処理で、技術的にはPythonスクリプト数十行で書ける。それでも課金が成立するのは、各サイトのrobots.txt回避、JavaScriptレンダリング、IPローテーション、法的グレーゾーンの肩代わりといった「面倒ごとの外注」価値があるからだ。裏を返せば、DeepSeekが日本の著作権法や各種メディアの利用規約をどこまで配慮しているかは不透明である。推定だが、日本の新聞社・出版社サイトの本文を無断取得して自社サービスに食わせた場合、将来的に差止請求や損害賠償請求のリスクを負うのは、APIを呼び出した側の日本企業になる。安いからと飛びついた結果、法務部が火を噴く未来は十分あり得る。さらに、月数千円という試算は検証段階の話で、本番運用で日次数万クエリを投げれば月額は一桁跳ね上がる。「月数千円で社内AI検索」という見出しだけを信じるのは危険だ。

経営者として次に取るべき動き

第一に、現在契約中の検索API・スクレイピングベンダーに対し、来月中に見積りの再提示を要求すべきだ。DeepSeekの0.75ドルを交渉カードにすれば、国内ベンダーの単価は確実に下がる。第二に、DeepSeek APIを本番導入する前に、法務とセキュリティ部門に対して「検索クエリと取得URLのログがどこに保存され、どの国の法令下に置かれるか」を文書で確認させること。中国サーバーに業務上の検索履歴が蓄積されるリスクを経営判断の俎上に載せる必要がある。第三に、検索APIを前提としたAIワークフローは、必ず代替プロバイダーへの切り替え可能性を設計段階で担保しておくこと。抽象化レイヤーを一枚挟むだけで、半年後の価格改定や撤退に耐えられる。安い蛇口に飛びつくのは構わないが、蛇口が閉じられた瞬間に渇死する体制だけは組んではいけない。