Google DeepMindがGemini 3.5 FlashにPC画面操作機能を搭載した。AnthropicのComputer Useに速度と価格で正面から殴り込む一手だ。経費精算、勤怠入力、求人応募――これまでRPAベンダーが寡占してきたバックオフィスのクリック作業市場が、Flashの低コスト構造で一気に解体される可能性がある。投資家視点で読み解く。

何が起きたか

Google傘下のDeepMindは、Gemini 3.5 FlashにPC操作機能(Computer Use)を実装したと発表した。AIがブラウザやアプリの画面を認識し、自らマウスをクリックし、フォームに入力し、タスクを最後まで遂行する。デモで示されたのは、経費精算サイトを開きレシート画像を読み取って入力するフロー、求人サイトで条件を絞って応募ボタンを押すフローなど、まさに「人間が画面の前でやっている退屈な作業」そのものだ。

注目すべきは、これがフラッグシップのProではなく、軽量・廉価帯のFlashに搭載された点である。AnthropicがClaude 3.5 Sonnetで先行投入したComputer Useに対し、Googleは「上位モデル対抗」ではなく「下位モデルでコスト勝負」という非対称戦略を選んだ。画面操作はトークン消費が膨大になるため、推論コストの低さが事業性を直接左右する。Flash採用はその急所を突いている。

なぜこのニュースが重要か

第一に、これはRPA市場の構造変化を意味する。UiPath、Automation Anywhere、国内のWinActorなど、RPA市場は世界で2.5兆円規模(推定)に膨らんできたが、その本質は「APIがない業務システムの画面を、ルールベースで自動操作する」ことだった。シナリオ作成に専門人材が必要で、画面レイアウトが少し変わるだけで止まる脆さを抱えていた。

Geminiの画面操作AIは、自然言語で指示するだけで動き、レイアウト変更にも視覚理解で適応する。RPA導入コスト(ライセンス+構築費)が1ライセンス年100万円規模だったものが、Flashの推論料金ベースなら桁違いに下がる。RPAベンダーの売上モデルが「ライセンス課金」から「LLM API従量課金へのマージン乗せ」に強制移行させられる構図だ。

第二に、SaaS選定基準が変わる。これまで「APIが充実しているか」がエンタープライズSaaSの評価軸だったが、画面操作AIが普及すれば「APIがなくてもAIが画面で操作できる」ため、API未整備のレガシーSaaSや基幹系の延命可能性が高まる。逆に言えば、API連携を売りにしてきたiPaaSベンダー(Workato、Zapier等)の優位性は相対的に低下する。

市場・投資視点

投資家として注視すべきは、Anthropic対Googleの「Computer Use戦争」がコモディティ化を加速させる点だ。Anthropicが先行者として高単価を維持する戦略を取るなら、Googleはエコシステム(Workspace、Chrome、Android)との統合とFlashの低価格でシェアを取りに来る。OpenAIのOperatorも控えており、3社の競争で画面操作AIの単価は1年以内に半減すると推定する。

ベンチャー投資の観点では、「画面操作AIのオーケストレーション層」を狙うスタートアップが本命だ。LLM単体ではエラー処理、認証突破、機密情報のマスキング、監査ログといったエンタープライズ要件を満たせない。ここを埋める日本発のスタートアップが出れば、RPAベンダーの顧客基盤を一気に奪える。逆にRPA上場企業の株価は、今後12ヶ月で大きな再評価圧力にさらされると見る。

注意点もある。画面操作AIは「速いが間違える」フェーズにある。経費精算で金額を1桁間違えれば致命的だ。Flash採用は速度・コストでは正解だが、精度面ではPro系との使い分けが必須になる。実運用では「Flashで操作、Proで検証」の二段構えがデファクトになると想定する。

経営者として次に取るべき動き

第一に、自社のRPA契約を棚卸しすること。来期更新分から、Gemini Computer UseやClaude Computer Useでの代替PoCを並走させ、3ヶ月以内にコスト比較データを取る。RPAライセンスは交渉カードを失う前に値下げ要求すべきだ。

第二に、バックオフィスの「クリック作業地図」を作成する。経費精算、勤怠、請求書発行、採用オペレーション――1人月以上かかっている画面作業をリスト化し、AI移行の優先順位を付ける。最初の1件で成功体験を作れば、社内展開は加速する。

第三に、SaaS選定基準を見直す。今後の新規SaaS導入では「API有無」より「画面の安定性とAI操作との相性」を評価軸に加える。基幹系の更改判断も、AI画面操作前提なら延命の選択肢が広がる。1兆円規模で動く業務自動化市場の地殻変動を、Flashの一発が引き起こしている。